YAEGEI

2019年に解散した琉球大学八重山芸能研究会の個人的思い出を書き溜めました

一人で披露宴

「おい、今度の日曜日、余興があるんだけど、行ける?」
3年生のときだったと思います。そういわれて、まあ、八重芸にどっぷりと浸かっている私には、八重芸に予定がなければ私にも予定が無いわけでして。
「はい。どこですか?」
「坂下。郵便の、ホールがあるさ」
「ああ、ホテルのすぐ近くの、あそこですね」
「そうなんだけど、一人だけでいいんだって。鷲ぬ鳥節の地方してほしいって」
「一人?三線だけですか?」
「うん。他は必要ないって言うんだ」
「わかりました。行きます」
琉大から坂下のそのホールまでは、ちょっと遠いけれど歩けない距離ではありません。当日、指定された時刻よりも少し前にホールに到着しました。
余興で呼ばれた場合、宴会場に席はありません。直接楽屋へ行くことになります。このホールは正面に回らず、駐車場側から小さなドアで楽屋に入れるようになっています。そのドアのところに人が立っていました。
「すみません。余興で呼ばれてきました」
「えーっと、どの演目でしょう」
「鷲ぬ鳥なんですけど」
「え?・・・・・鷲・・・ありませんけどねえ」
「え?無い?」
その人は余興の進行を担当していたのでしょう。手に余興の表をもっていらして、それを開見せてくれました。たしかにありません。
「おかしいなあ、ここだって聞いたんだけどなあ」
途方に暮れる私。
「あの、ここ、2階でも結婚式やってますよ」
「え?2階もあるんですか」
この会場には来たことがあったので、同じ場所だと決めつけてしまっていたのでした。2階もあるとは知りませんでした。お礼を言って2階へ行くと、ありましたありました。ちゃんと鷲ぬ鳥節の演目も。地方席に行って琉大から来たことを告げると、衣装を着けた若い女性とその母親らしき人がやってきて、
「この子が踊るんですが、初めてなので、とにかく、舞台の真ん中に歩いて行って、正面を向いたらそこから歌いだしてやってください」
八重山の披露宴では、新郎、新婦の兄弟姉妹が踊りをするという習慣があります。踊りが趣味という人ならともかく、そうでない人がほとんどですから、こういったことはありえることでして。まあ、普通はカセットテープに合わせて踊りますので、踊り手が歌がはじまるまで舞台中央で待って、歌を聞いて踊り始めるということになるのですが、今回は生演奏ですので踊り手に合わせて歌うということになるわけです。それにしても、たった一人で舞台で踊るとは。緊張しているでしょうねえ。
最後まで踊れるか心配しましたが、始まってみると真剣な表情で堂々と立派に踊ってくれました。
さて、今日の依頼はこの一曲だけ。挨拶をして帰ろうとすると、今度は別の衣装を着けた女性がやってきて、
「鳩間節やってくれない?」
酒席でしたらその場で声をかけられて初めて合わせるなんてこともありますが、ここは披露宴会場。いきなり本番でいいのでしょうか。
「あの、いいんですか?」
「いいのいいの。私がこうして手を交差したら、歌いだしてね」
などという簡単な打ち合わせで、本当に踊ってしまいました。今だったら怖くてできませんけど、いやあ、若かったんですねえ。


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プロフィール
hidarinodo
1978年に八重芸に入った男性