おいしい山羊汁
八重芸現役、つまり大学生だったときは、海邦寮におりましたので、食事は寮の食事。栄養的にも金銭的にも助かりました。
食べ物で記憶に残っているのは、まずは前に書きました「山羊汁」。2年生のときに与那国島で初めて食べたものです。その後、ずっと食べる機会はありませんでしたが、あるとき、家庭教師をしていたアルバイト先で出たんです。山羊汁が。いやあ、緊張しました。食べないわけにはいかないし、食べたいわけではないし。どうしようかと思っても、もう目の前にはあの山羊汁が出てきている。
山羊汁は沖縄でも好き嫌いのはっきりと分かれる食べ物です。私の知人でも、ある人は「ひーじゃーじょーぐーよ」と胸を張って言いますし、ある人は、
「山羊汁の店の前を通るのもいや!」と、これまた胸を張っておっしゃる。で、このアルバイト先のお母さんも、私に山羊汁を出すときのこころの中には「このナイチャー、どんな顔をするかたのしみだわい」と、ここまでいじわるではないにしても、ちょっとしたいたずら心といいますか、イベント的な楽しみといいますか、仮に食べられなくても怒り出したりはしないでしょうし食べたら食べたでちょっと驚いてくれるかもしれないという、そんな感じなのでした。
食べました。食べられました。不思議です。あまり、あの「けもの臭さ」を感じないのです。十分食べられて、おいしい。私は今回が初めての山羊汁ではないことを、あの与那国でのいきさつを含めて簡単に説明しました。そして
「でも、これは食べやすいです。においが無いですよね」
「そうでしょう。これね、家で炊いて、何度も何度もアクをとったの」
「へー、そうすると、こんなに食べやすくなるんですね」
この言葉にお母さんも満足。私も山羊汁に満足しました。
それ以降、私も「ひーじゃーじょーぐ」の仲間入り。友人と山羊汁の店に行くほどになったのです。おかげで、卒業後、本部町に就職したときには「自分、山羊汁大好きです」といったら、ナイチャーの壁がちょっとだけ下がったような気がしたものでした。