わら
発表会が近づくと、練習の終わりに深夜まで作業をすることが増えてきます。
ある日、部室にそこそこの量の藁(わら)が運び込まれました。部長がそれを左右の手に数本ずつつかむと、手のひらでくるくると「縄を綯って」いくのでした。
子どものころ、夜は祖母と一緒に過ごすことが多かった私は、「銭形平次」「大岡越前」「素浪人月影兵庫」などなどの時代劇を欠かさず見ていました。その中で農民がくるくると手際よく縄を綯う様子を見て、憧れていました。それが、目の前で繰り広げられているのですからうれしくてうれしくて。
部長にお願いして、教えてもらいました。教えてもらえばそれなりにできるようになるものです。が、やはり均一に綯うことができていなくて、弱い部分があってあまり上等とは言えないようでした。
「やはり、年配の人は上手なんでしょうね」
と部長に聞くと、
「いや、力のある若い人の綯う縄の方がいいよ」
とのことでした。
この藁綱が、舞台の最後の場面で「帯」として使われると知ったのは舞台当日のことだったと思います。